一般社団法人斜面防災対策技術協会 富山支部
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中国、「四川汶川地震」(512大地震)の現地を視察して

(社)斜面防災対策技術協会富山県支部

はじめに

断層が大きくズレた都江堰市虹口地区にて(参加者と欧教授)

 今回の視察は、当支部の目的である「斜面防災対策に関する技術の向上」を図り、「斜面防災対策技術の進歩改善に関する調査及び研究」の一環として、世界の土砂災害状況の現状を視察し、見識を広めることを目的として、中国の「四川汶川地震の被災地」の現地視察を行いました。

 当支部では、災害地の視察、毎年実施している講演会や講習会などの活動を通じて、地域団体として公共事業の必要性への理解や地方の協会のあり方や活動などに関する情報を幅広く県内の行政、他団体、地域住民に発信することが重要と考えています。また、様々な活動により、会員の幅広い防災技術の研鑽を図り、広域的に発生した自然災害時における速やかな復旧・復興に向けた緊急出動(災害協定)に対応すべく、大きな役割を担っていくことも重要と考えています。

 今回の視察に当たって、富山大学大学院理工学研究部の竹内章教授を団長とし、会員各社から村尾支部長を始め9名の参加を得て、災害から1年5ヶ月を経過した四川省の成都市を訪れました。現地では、中国科学院成都山地災害及び環境研究所の 欧国強教授にお世話になり、車(バス)で行ける最上流部まで案内を頂き、現地の状況を自らの目で視察をすることが出来ました。(写真−1)

現地視察へ

手前が仮設住宅(居民安置点)、後ろに新しい住宅が建設されている

 中国へは、10月7日に富山空港から大連経由で四川省の成都市へ、翌8日、9日の2日間、成都市から約100km先の被災地までバスで行きました。

 成都市からの車窓で高速道と平行して、新幹線の建設現場が目に入り、いつ着工したのですかと聞くと、昨年の5月に着手したと聞きました。僅か1年半ほどで全区間の高架の下部工事を完了させるという、国(直轄)の力(勢い)をまざまざと見せつけられました。

 被災地(震源地)に近づくと、新幹線の工事と同様に、その復旧・復興のスピードは速く、壊れた家の瓦礫や取り除いた土砂と仮設住宅、新しい住宅の建設(一部は入居)が同居しており、人々の生活の再建へ逞しく動いていました。(写真−2)一方、交通マナーの悪さも相まった渋滞や道路面や道路防災に対する安全性は低く、構造、施工上の技術的には大きな課題があるように感じました。

 これほど、復旧・復興作業が早いのは、全ての土地が国有地であるが一番の理由です。実行は国の「中央災害復旧管理委員会」からの指示で行われ、費用は国と応援する省(市)、地方政府及び銀行が負担をし、住居の移転場所は国が決めるなど、国が積極的に関与するシステムにあるからです。なお、住民の移転先の選択については住民が決めることが出来き、費用の一部負担があるようです。

被災地の状況

岷江沿いの斜面崩壊の状況(交通マナーが悪いため渋滞中)

 被災地へは成都市を流れる眠江(長江(揚子江)の支流)の上流に向かって進みましたが、途中の道路の山腹斜面の崩壊状況は凄まじいモノがありました。(写真−3)また、支流からの土石流により河川が閉塞され住宅が水没、山腹斜面の崩壊や落石による家屋の被災の爪痕が生々しく残っていました。特に、斜面対策は通行に支障がある個所しか手が付けられていなく、生活のための住宅の建設と道路の通行の確保に大きな重点が置かれているように感じました。

 震源地の近くで、出現した断層のズレの現場を2箇所、視察しました。一つは都江堰市虹口地区で家(納屋)が2つに割れ、側の道路も6―7mの押し上げによるズレが生じていました。今ひとつは、彭州市の白鹿鎮地区にある白鹿学校の校舎に平行して、ズレが生じた現場です。この現場は4階建ての校舎と3階建ての校舎の間でズレ、1階分(約3m)の段差が生じ、3階建ての校舎と同じ高さになった現場でした。(写真−4)この断層のラインが少しでも校舎に掛かっていたら、多くの子供達が被災したのではと思うとゾーッとした現地でした。

 これらの断層により決壊した橋梁や震源地などは断層も含めて「地震遺産」(写真−5)として保存する旨の看板が立てられていました。この遺産は観光資源(?)として活用され、「震源地へのガイド」や河川内に流出した「砂を採取」など、住民の稼ぎの場にもなっていました。

彭州市の白鹿学校の校内に発生した断層のズレ(約3m)地震遺跡 彭州市にある崩壊した「小魚洞大橋」に立っている地震遺跡の看板

今回の、視察を終えて

 今、日本国内では、毎年のように大地震、火山噴火、局地的な豪雨が発生しています。これらの自然災害に対しては日頃からの備えとして、ハード、ソフトの両面からの防災対策の重要性を改めて痛感しました。そして、被災地を目の当たりにして、これからも日本国内で発生するであろう大規模な災害に対する国の役割として、節度有る強権的な対応(中国との行政的な違いの整理は必要ですが)を行っても良いのではと感じました。

 このことについて、最近、国土交通省において、TEEC―FOCEが組織され、速やかな災害直後の安全点検が行われる体制が整いました。しかし、住民生活や社会・経済を短期間での再建に向けた対応(対策)の実施には多くの時間を要しています。いち早く復旧・復興を行うため、国(直轄)が直接的な関与が可能な法的な措置の検討(用地や法的な手続き、地元説明、発注作業など時間の掛かる対応の見直し)が必要ではないでしょうか。

 そして、速やかな復旧・復興には地域団体(企業)が果たす役割には大きなモノがあります。いざというときに備えた日頃からの「官民」の開かれた連携(役割分担)と「学」を活用した3者の関係の構築が重要であると、強く感じることが出来ました。

地方団体からの声の発信へ

 災害は必ずいつかやってきます。日本では「無駄な公共事業」と批判的ですが、今回の視察で悲惨な災害跡の現地を見ると、予めの防災対策は国の重要な使命であると痛感しました。日本では、一般的に被災後の復旧は予めの防災対策より、多くの費用を要し、かつ、復旧・復興にも多くに時間を要しているのが現状です。

 また、これまで、生活や経済活動に幅広く道路が使われ、当たり前のように美味しい水や発電の提供、洪水や地震などの災害を防ぐ対策が行われています。これら全て公共事業がもたらした恩恵であり、一概に経済効果の秤(目安)は一様ではありません。

 依然として必要な公共事業は多くありますが、2010年度予算は大きく削減されようとしています。それぞれの事業には重要な必要性が有ります。それを正しく説明し、国、地方の役割により「国土の安心・安全の構築」を進めるためには、公共事業は欠かすことの出来ないモノであることは、昔も今も変わらないと確信しております。これからも、地域経済の安定や雇用の確保観点からも重要であるとの声を一地方の団体として、発信する活動を進めていきたいと、中国の被災地を目の当たりにして、一層強く感じることが出来ました。


(文責:技術顧問 川田 孝信)